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宮崎地方裁判所 昭和56年(ワ)517号 判決 1985年10月30日

原告

斉藤操

原告

斉藤ミサエ

右両名訴訟代理人

冨永正一

被告

宮崎県

右代表者知事

松形祐堯

右訴訟代理人

殿所哲

右指定代理人

平塚睦郎

外四名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告らに対し、各金七四〇万一六六三円及びこれに対する昭和五六年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者の地位及び関係

原告らは肩書住居地で農業を営む夫婦であり、訴外亡斉藤浩文(昭和三六年七月三日生、以下、浩文という。)は原告らの長男であつた。

被告は宮崎県農業大学校(以下、本件学校という。)を設置し管理する者であるが、本件学校は、宮崎県における農業後継者育成のために宮崎県によつて設立された二年制全寮制の大学校である。

浩文は、昭和五五年三月、宮崎県立高鍋農業高等学校を卒業し、同年四月一一日、本件学校に入学し、同日から本件学校内の青雲寮に入つて生活するようになつた。

2  浩文の死亡に至る経緯

本件学校では、同年四月二二日、校内の各科対抗バレーボール大会が開催され、浩文の所属する野菜科が優勝した。

そこで、同日午後九時三〇分ころから青雲寮内のテレビ室に、野菜科三六名の学生が集まり、同日午後一〇時三〇分ころまでの間、優勝祝賀会が開催された。その際、会費一名五〇〇円が集められ、焼酎(一升ビン)六本、ビールジャイアントビン二本等が用意されて宴会が開かれた。

浩文は、右宴会において、先輩等に勧められてビールをコップ一杯、焼酎をコップ四杯ほど飲み、同日午後一〇時一〇分ころ、気分が悪くなり、友人四人に抱えられて自室に戻つて介抱を受けたが、その間、同室内で三〜四回吐いた。

その後、浩文は翌二三日午前二時ころまで友人の介抱を受け、同日午前七時ころ、急性アルコール中毒に基づく急性心不全により死亡した。(以下、本件事故という。)

3  責任原因

(一) 債務不履行責任

(1) 学生が本件学校に在学する場合、在学関係は設置者たる被告との契約に基づいて基本的に成立し、これにより学生は教育を受ける権利を取得し、学校設置者たる被告は学生に対してその施設を供し、教職員をして学生に対し所定の課程を教授させる義務を負う。

もとより本件学校は県が設置経営するものであるから、私立学校と異なる法的規制がなされ、これに基づいて教育行政を行うことも当然であるが、在学関係については、専ら合意に基礎を置き、その合意が準拠する教育基本法、学校教育法等、さらには教育目的に沿う慣習、条理によつて補完され、これによつて規律さるべき契約関係と解すべきである。この限りにおいて私立学校の在学関係と別異に解される必然性はない。

そして、学校設置者たる被告は、当該在学契約関係に付随する当然の義務として、教育条理及び信義則上、学校教育の場において学生の生命、身体等を危険から保護するための措置をとるべき義務を負つている。また、本件学校が在学契約関係の中で全寮制をとり、学生を設置した寮に入れるからには、寮生活の場においても当然被告は学生の生命身体等を危険から保護するための措置をとるべき義務を負つているというべきである。したがつて、設置者たる被告において右安全を配慮する義務を怠つた場合には、債務不履行による損害賠償責任を免れない。

仮に、本件学校と学生との関係が公法上の特別権力関係としても、本件学校が教育のため、学生に対して管理権を有する以上、信義則等により、管理をなすべき者は被管理者である学生に対しその身体、生命、健康についての安全配慮義務をその法律関係に内在するものとして負つているというべきである。したがつて、本件学校が右義務を怠り、これによつて損害が発生した場合には、私法上の契約により在学の法律関係が成立した場合と同様に、不履行による損害賠償請求をなしうると解すべきである。

(2) 本件学校では、具体的には次のような注意義務があつたものである。

(イ) 新入生・寮生(大部分が未成年者)の生命、身体の危険が発生する恐れがある学生だけの飲酒会などが行われることがないように、全面的な飲酒の禁止等の厳しい処置をとり、その実効をはかるため、違反者に対する処分を厳格にして学生の自覚を促し、さらに、寮内で飲酒する者が出ないように、寮内を巡回し、各室内を点検するなどして学生の飲酒行為を未然に防止し、特に各種行事が行われ、その後学生達による飲酒が予想される場合には、これが行われないように右の各措置を徹底してとるべきであつた。

(ロ) 仮に学内行事の後の学生の飲酒会が避けられないとすれば、相当量の飲酒を行つて気分が悪い者が発生したときは、直ちに本件学校側に届けるよう指導をし、また学寮の巡回の回数を増して気分の悪い者がいないかの確認に努めるなどの方策を講ずべきであつた。

(ハ) さらに、飲酒会自体が避けられないのであれば、本件学校はそのことから予想される緊急事態に臨機に対応できるよう予め救急隊や救急病院に連絡し、もしくは自主的な医療対策を確保するなど、危険の発生を具体的に防止し得る緊急医療体制を保障すべきであつた。

(3) しかるに本件学校は右(2)の各義務を怠り、過去学内行事の後には生徒の飲酒会が行われてきていることを知りながら、もしくは知り得べきであるにもかかわらず、巡回を厳重にするなどの具体的な危険回避のための方策を講ずることなく放置してきたのであり、そのため本件事故が発生したものである。

(4) よつて、被告は、以上の安全配慮義務違反により生じた損害を賠償する責任がある。

(二) 不法行為責任

(1) 本件学校の教授訴外中原敏彦(以下、中原教授という。)は、本件事故当夜の宿直者であつたところ、宿直者としては寮舎の管理、寮舎内での学生の生活についての生活秩序規律の保持を通じ、寮生を保護する義務があつた。すなわち、

(イ) 学生は未成年者であり、また寮内は禁酒と決められているのであるから、寮内で学生が多数集合して飲酒会が行われることがないよう監視し、巡回を十分にすべきであつた。

(ロ) 右巡回については寮生の存在、様子、各部屋の状況を見てまわり、異常がないかを十分に確認すべきであつた。

(2) 中原教授は、右注意義務を怠り、本件事故当夜、監視巡回を十分にしなかつた過失により、青雲寮内テレビ室での前記飲酒会が行われ、また巡回の際の確認が十分でなかつた過失により浩文の異常事態を発見し得なかつた。

(3) 中原教授の右過失により浩文が前記のとおり死亡するに至つたものであるから、被告は国家賠償法一条一項により、後記の損害を賠償する責任がある。

4  損害

(一) 浩文の逸失利益

浩文は、死亡当時満一八歳であつたところ、二〇歳で本件学校を卒業し、原告らとともに満六七歳まで農業に従事することになつていた。

そこで、昭和五二年賃金センサス高専・短大卒男子二〇歳の平均月額給与が金一一万八四〇〇円、年間賞与金二七万七二〇〇円であるので、これに年度のずれを考慮して五パーセントを加算し、新ホフマン係数二二・五五五、生活費控除五〇パーセントをもつて計算すると、その額は金二〇一〇万六六五四円である。

(一一万八四〇〇円×一二+二七万七二〇〇)×一・〇五×二二・五五五×〇・五=二〇一〇万六六五四

(二) 葬祭費 金五〇万円

(三) 慰藉料 金九〇〇万円

5  過失相殺、相続

(一) 本件事故の発生については浩文自身にも過失が認められるので、損害のうち五〇パーセントを差し引いて請求する。

(二) 原告らは浩文の両親であり、浩文の権利を各二分の一ずつ相続した。

よつて、原告らは被告に対し、債務不履行あるいは不法行為に基づく損害賠償として、各金七四〇万一六六三円及びこれに対する履行期後である昭和五六年八月二二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認容

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実は、そのうち浩文の死因については争い、その余の事実は認める。

3  請求原因3の各事実はいずれも争う。本件学校では学生が全寮制教育の目的に沿い、紳士的で明るい寮生活を送り、他に迷惑をかけたり、規律が乱れたりしないように飲酒を禁止しているが、その具体的指導方法としては、入学式終了後の各科のオリエンテイションで父兄同伴の入寮生に寮生活上の一般的注意事項とともに飲酒行為が厳禁されており、これに違反したときは厳重な処分を受けることがあることを説明し、さらにその後の全寮生のオリエンテイションでも同様の説明をし、注意を喚起している。また、実際に違反者に対しては自宅謹慎処分など厳重な処分をしている。飲酒行為は事柄の性質上、学生の自制に委せるべきものではあるが、このように本件学校が飲酒行為を厳禁し、その指導を強めているのは本件のような急性アルコール中毒による死傷を危惧したものではなく、前記の教育目的によるものであつて、右見地からすると、これ以上に厳重な措置をとつて全面的に学生の飲酒会を行なえないようにするなど原告主張の安全配慮義務はない。

4  請求原因4の事実は争う。

5  請求原因5の事実は、原告らの相続の点は認め、その余は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一当事者の地位及び関係

請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すれば、以下の事実(右争いのない事実を含む。)を認めることができる。

本件学校は、宮崎県における農業の振興をはかるため、農業経営者・指導者を養成する目的で、被告により設置された教育機関であり、経営学部、指導学部、専修科等の学部、科を設けているが、このうち右経営学部は、農業の自営を志す高等学校卒業程度の学力を有する者を選抜試験によつて入学させ、これに農業経営能力、生産技術等を習得させるため、二年間、実践的専門的教育を行うものとされ、宮崎県児湯郡高鍋町大字持田五七三二番に、校舎、寮、農場その他各施設がおかれている。

また、本件学校は、右教育内容上の特質のほか、学生が共同生活を通じて自主性、社会性、指導性を習得すべきことを目的として全寮制をとり、学生は、校内に設置された寮内に寄宿し、午前六時の起床から午後九時三〇分の点呼まで(但し週日)の定められた日課に基づいて学習、生活をすることになつている。

浩文は、昭和五五年三月、宮崎県立高鍋農業高校を卒業し、本件学校経営学部やさい花き科に入学を許可され、同年四月一一日に入学するとともに、校内の青雲寮に入寮し、同寮二階二一号室に寄宿して教育を受けることとなつた。

二本件事故の発生

請求原因2の事実は、浩文の死因の点を除いて当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すれば、以下の事実(右争いのない事実を含む。)を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

昭和五五年四月二二日午前九時ころから午後四時ころまでの間、本件学校では、学校行事として、校内球技大会が催され、浩文は、バレーボールの試合三試合に参加し、その所属するやさい花き科が優勝した。

同大会終了後、各学生は、入浴、食事等の日課を済ませ、各居室で歓談するなどしていたが、その間、青雲寮内では、二年生の学生が、右大会の優勝祝賀会の名目で飲食の会を開くといつて、同寮内の各学生から会費として各金五〇〇円を徴収してまわり、同日午後八時三〇分ころ、一、二年生数人が、校外の酒屋から、ビールジャイアントビン二本、焼酎(一升ビン)六本、ジュース一〇本、つまみ類等の酒肴を購入して同寮内に持ち込んだ。

その後、午後九時ころ、学生の中から選出されている寮長が日課となつている点呼をとり、その結果を、本館校舎内の事務所内で宿直業務に従事していた当直者の中原教授に報告し、これの終了後の午後九時三〇分ころ、青雲寮二階の談話室に、やさい花き科一年生一九名、二年生一一名が集まり、午後一〇時二〇分ころまでの間、宴会が行われた。

浩文は、この間、ビール紙コップ八分目位、焼酎紙コップ五杯位(約三合)を飲んだが、宴会の終るころには酩酊したため、同級生の湯村隆ほか二名にかかえられて自室に戻り、翌二三日午前二時ころまでの間バケツに三回ほど嘔吐し、その後自室内で寝入つた。

右宴会の前後を通じ、中原教授は、まず午後六時ころ、食堂に赴いて学生の食事状況を確認し、次いで点呼前の午後八時三〇分ころから約二〇分程度、青雲寮内の廊下を歩いて寮内を見回り、特別の異常を認めないまま事務所に戻り、午後九時過ぎころ前記点呼の報告を受けた。さらに消灯(午後一一時ころに自動的に消灯となる。)後の午後一一時一〇分ころ、見回りのため青雲寮に向う途中、同寮一階玄関付近で数名の学生が話をしているのを認め、これに近付いたところ、この学生が寮内に逃げ帰つたため、同寮一階廊下に入り、早く就寝するよう各室に聞こえるように呼びかけ、さらに二階に上つて廊下から各室の様子を窺つた(開扉はしないまま)が、異常を認めなかつたため同寮を離れ他の寮に向つたが、それまでに前記宴会が行われたことには気付いていない。

同月二三日午前六時過ぎころ、目を覚した右湯村隆は同室の浩文の異常に気付き、同室内で寝ていた田口某等を通じて同日午前六時一〇分過ぎころ中原教授にこれを知らせた。同教授や急報を受けて駆けつけた救急隊員(午前六時二五分ころ到着)、医師坂田師貫(午前六時四五分ころ到着)らによる応急措置にもかかわらず、浩文は同日午前七時ころ、前夜来の飲酒による急性アルコール中毒による急性心不全により、死亡した。

三責任原因について

1 債務不履行責任

(一) 本件学校は、被告の宮崎県が、地方自治法二四四条の二に基づく条例、さらにその下位の各規則によつて設置、管理する教育施設であり、学生の在学関係は、この施設の利用関係として、行政処分によつて発生する法律関係である。したがつて、これを私立学校と同様の私法上の在学契約に基づくものとし、学生、被告の各権利義務をこの契約から発生するものと解すことはできない。

しかしながら、本件学校の設置目的を達成するための教育、研修といつた諸活動は、実質的には私立学校の場合と大きく異なることはないのであつて、右の教育活動の過程において学生の生命、身体、健康に対する安全に影響がある場合には、学校当局である被告県は、この法律関係の付随的義務として、信義則上、右安全について配慮すべき義務を負い、かかる義務に違反しした場合には、債務不履行に基づく損害賠償責任が発生するものと解すべきである。

もとよりこの安全配慮義務の存否、その違反の有無は、在学関係という広い法律関係の中で、この義務の存否が問題とされるべき事態の発生した場所、時間、関係当事者のかかわり方、被告県ないしその履行補助者である学校側の学生に対する管理、支配の内容・程度その他具体的諸状況等を前提として、具体的、個別的に検討すべきことはいうまでもない。

(二) そこで、原告が主張する本件学校当局が負うべき具体的な安全配慮義務の内容について検討する。

<証拠>によれば、本件学校内に設置されている寮は、単に学生に対して提供する宿泊場所というものにとどまるものではなく、昼間の教室における講義等のほか、数人の学生をグループに分け、各グループによる野菜等の作物の継続的・効率的な生産実習(これを本件学校ではプロジェクト圃場実習といつて、これに大きな意義をもたせている。)を行なうなどの実学的な教育内容の効率化をはかり、学生の共同生活を通じての自主性、社会性、指導性を習得させるという目的に資するため、学生全員を寄宿させるという判度をとつていること、週日の寮生活中、夕食後も午後九時三〇分の点呼までは、クラブ活動や自習のための時間に予定されてこれが日課になつているなど、寮内での生活も教育活動の一部に含まれていることが認められる。

本件学校当局は、右のように、寮内の学生の生活をも教育活動の一部としているものであるが、反面において、寮内での学生の生活は、私生活としての一面を有するものであり、夜間においては原則として学校当局側からの特定の教育的な課業が予定されているものではなく、自習、クラブ活動といつた学生の自主的活動にとどまるものであるから、教育的見地からも学校当局による学生に対する支配、介入は必要最少限に止めるべきであつて、寮内での学生の生活について、学校当局が負うべき安全配慮義務も学生が自主的に生活秩序や規律を保持するよう指導するなど補充的なものとならざるを得ない。

そこで、さらに、本件で原告が主張する学生の飲酒及びこれによる事故の発生に関し、本件学校当局がとるべき安全配慮義務の有無について検討する。

<証拠>によれば、本件学校経営学部には、高等学校を卒業した満一八歳以上の男女が入学し、二年生については、誕生日をむかえた者が成人し、卒業時には全員が成人することが認められ、これによれば、学生の過半数の者が満一八歳及び一九歳ということになる。また、法律上、未成年者の飲酒は禁じられているが、<証拠>を総合すれば、高等学校を卒業した満一八歳以上の者は、上級学校に進学した者も含め、社会生活上、成年者と同様に社会人としての行動が期待される場合が多いこと、この年齢の未成年者のうち、相当多数の者が飲酒を経験し、この飲酒に対し、親権者をはじめ、周囲の者も比較的寛容な対応をする場合が多いこと、本件学校に在学する学生の中にも、入学前から飲酒を経験している者が多いこと等の事実が認められる。

以上の諸点にかんがみると、本件学校に在学する学生の年齢、学識等から考えて、学生には、物事の是非を判断し、共同生活上必要な節度を保持することについて、十分、自制のうえ行動することが期待できるものであり、飲酒自体も強制的に禁止するよりは、学生の自制に委せ、自らの判断と責任によつて対処すべき事柄というべきである。

また、<証拠>によれば、本件学校では前記認定のとおりの趣旨で全寮制を採つているところから、学生が共同生活をするにあたつて、飲酒を原因とする非紳士的行動等によつて他に迷惑を及ぼすなど、全寮制の趣旨を全うすることに支障を来す場合がありうるため、成年者未成年者を問わず、全学生の飲酒を禁止していたことが認められる。

このように、学校当局によつて禁酒の措置が採られている場合、前記のとおり、学生に自制した行動を期待できること及び飲酒自体の性質にかんがみ、学校当局としては、学生に対し、右の禁酒の趣旨を周知させ、自覚を促す措置をとれば足り、違反を防止し、あるいは飲酒による本件事故のような事態の発生を防止するために、寮内の巡回の回数を前記二認定以上に増やしたり、一方的に寮内の各居室内を点検したりすることまでの必要性はないものと解するのが相当である。

さらに、飲酒自体が前記のとおり、学生自身の判断と責任によつて対処すべき事柄であり、学校当局がこれを禁止する場合でも、その際にとるべき措置が右のもの程度にとどまると解する以上、飲酒の結果についても、学生自身が右と同様に対拠すべきであつて、飲酒によつて気分を悪くした者が発生した場合、学校当局において直ちに対応できるよう、これを届出るべきことを指導するとか、寮内で傷病等が発生した場合に通常とられる措置とは別に、とくに本件事故のような事態の発生を未然に防止できるように、事前に救急・医療対策をとつておくこと等が学校当局の義務であると解することはとうていできない。

(三)  <証拠>によれば、本件学校では、学生に対し、入学にあたつて、寮生活上の規律維持のため飲酒を厳禁する旨が記載されている資料を配布し、重ねて入学式後のオリエンテーション行事において、学生及び保護者に対し、右の旨を指導し、違反者に対しては自宅謹慎等の処分をして反省をさせるとともに、他の学生に対しても自覚を促している事実が認められ、さらに前記二で認定した本件事故発生後の救急・医療措置についても、学校当局のとるべきものとして不相当なものとは認められない。

(四) 以上によれば、本件学校当局は信義則上求められる安全配慮義務を尽くしており、その程度をこえる原告主張の安全配慮義務の存在を認めることはできない。

2 国家賠償責任

右1の認定、判断によれば、

本件学校の宿直業務に従事する教職員は、その業務従事中寮舎の管理、寮舎内の学生の規律維持のための右1と同様の注意義務を負うものと解すべきであるが、前記二で認定した本件事故発生前後の宿直者である中原教授のとつた措置に、右義務違反となるべき過失を認めることはできない。

四結論

よつて、原告らの請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないからいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官川畑耕平 裁判官若林辰繁、裁判官鳥羽耕一は転補のため署名押印できない。裁判長裁判官川畑耕平)

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